黒い部屋の夫
- 市原 恵理
- インフォレスト
- 1260円
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書評/
「本が好き!プロジェクト」からの献本御礼。
http://www.buzz-pr.com/about/index.html
私の元夫は、私が妊娠した直後にうつ病になりました。
出産や私の入院を経て6年間、家事育児と仕事、夫との闘病に私なりに力を注いだつもりでしたが、力尽き果て離婚。私は新しい生活と、やがて新しいパートナーを得、元夫は自殺しました
という衝撃な告白から本書は始まる。
本書は、うつ病の元夫の自殺後に、6年間の闘病生活の事実を忘れないために、記憶を記録したブログを本にまとめたものらしい。
重くウンザリする内容だけど、どの家族にも起こりうる問題で、決して目をそむけることはできない。
疑問が1つ。
そもそも、わざわざ死んだ人間をダシにブログする必要があるのか?
本書の中で著者もその疑問に葛藤する。
しかし、その疑問にはこの言葉の前にはグウの音もでない。
よその実態がわからない。
みんなはどうやって支えているんだろう?みんなは私以上にがんばっているんだろう?うつの相手にイライラくる自分は人間ができていないの?
リアルにで相談できる人がいればベストだが、それが不完全なら、せめて、インターネット上で、似たような状況にある人たちと励ましあうことが、どれほど心の負担を軽くすることだろうか。
誰しも、病気の家族を見捨てたくなんて、ないと思う。出来ることなら、自分も潰さず相手を治したいと思うだけだろう。
だから、もっと叫んで。もっと巻き込んで。1人で抱えないで。
なりふり構わず助けを求めて。自分と、大事な家族のために。
医者は、「叱咤激励してはいけないが、普通に接してください」と言う。
仕事もせずにダラダラ家にいる人間を叱咤激励してはいけないのか?
何が普通なのか?
著者は、うつ病患者への接し方に、悩む。
ネットで調べても、家族の苦悩について述べたサイトが無いため、何を信じたらよいか、本当に自分の行動が良いのか、ずっと葛藤する。
うつ病患者は甘やかされ大切に保護される一方、その家族の苦悩にはスポットが当てられていない。
昨今、会社には行けないが、趣味には明るく没頭するニュータイプうつが多いらしい。本書の夫もそのニュータイプうつのようだ。
毎日が日曜日で仕事には行けないのだが、自分の趣味にはすごい情熱で没頭する。ただそれ以外には何の興味も持たず、権利意識、自己主張だけは一人前。
本当にうつなのか、単なる甘えた人間なのか? 区別がつかない。
本書の読者層は、妻という立場の人が多いと思う。
主人公に感情移入し、典型的なダメ人間の夫を悪者にすることで、溜飲をさげる人もいるでしょうし、他人の不幸は蜜の味というワイドショー感覚で読む人もいるでしょう。
しかし、本書は、夫である立場の人間にこそ読んでほしいと思う。
私も、もしかしたら自分がうつ病かしらと思ったことはあるし、自意識過剰で自己愛の強い部分は本書の夫と重なる部分が多く、人ごとに感じることはできない。認めたくは無いが、自分のダークサイドを見ているようだ。
そして、本書を発表した大きな意味はもう1つある。
それは、著者自身の喪失(夫の自殺)を受入るための「喪の仕事」の一部なのだ。
喪の仕事とは、大切な人や物を失ってから、その事実を受け入れるまでの心理プロセスのこと。
① 感情麻痺の時期(ショックは大きいものの、呆然として感情起伏が少ない)
② 思慕と探索の時期(失った人の思い出に浸り、嘆き悲しむ)
③ 混乱と絶望の時期(怒りや恨みが渦巻き、自分や環境、関係者すべてがその対象になりうる)
④ 脱愛着と再起の時期(諦めと受け入れ)
④に辿り着いても、②と③を何度も繰り返すという。
その繰り返しこそが、喪失に苦しむ人たちの回復に大きな助けになるのだという。
最後に、ちょっと話はズレルが、ブログという表現の可能性を改めて感じた。
ブログはこういった個人的な悩みを解消したり、心情を整理するのを手助けするのに大変有効なツールなのだ。
不特定多数に、自分の感情をぶちまけることができる。
まるで「王様の耳はロバの耳」のように。
そうはいっても、同情以上に、聞きたくない批判をも覚悟しなければいけない。
そういった批判でさえ、事態を強い心持ちで受け入れる手助けになるのかもしれない。
本書は彼女を苦難と喪失から解放する役目も果たしているんだと思う。
支離滅裂な感想文になりましたが、
最後の最後に著者の一番のメッセージを引用して終わります。
経験から来るこの言葉は、どんな名言よりも重い。
何か意味があって生きてるんじゃない。生きているから意味が出てくるのだ。
楽しいから、好きな人がいるから、目標があるから、立派だから、生きているんじゃない。
まだこの命繋いでいるから、楽しめるし、好きな人に出会えるし、目標を作れるし、立派になる可能性もまだ残っている。
辛くても、悲しくても、無気力でも、光が見えなくても、恥ずかしくても、怒りがおさまらなくても、くだらなくても、生きていてほしい。
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