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資本主義はなぜ自壊したのか

公開日: :


かつては、自由市場絶対主義、構造改革絶対主義者で、政府のブレインだった中谷巌氏が、
サブプライム後、一転して、資本主義は決して人類を幸せにしないことに気づき、
本書によって、今後の日本の進むべき道を提言するとともに、自戒の念を込めた懺悔の書でもある。
超要約すると、
資本主義は、
・エリートが大衆を支配・搾取するためのシステムであり、世界中で格差拡大を加速させる。
・自分が得をすれば自然を破壊してもかまわない利己的なシステムであり、環境破壊を拡大させる。
 これからは、かつての日本人のような
 信頼第一の思想や、自然と共存する思想こそが、人類に求められているのではないか。
また、本書では、
資本主義が崩壊した理由を、宗教、歴史的背景から根本的原因をひも解いている。
キリスト教のような一神教では、
・異教徒との共存はありえず、食うか食われるかの闘争しかない
・人間は自然を支配する存在である
そういう考えをもったアメリカが中心となって、
自由、民主主義という甘言をかくれ蓑として、世界中に資本主義を押し売りしたが、
アメリカの想像を超えたグローバリゼーションにより制御不能となり、資本主義は自壊していった。
のだと。
我々日本人は、他人を思いやり、自然と共生する思想が染みついている世界でも無二の存在である。
なのに、戦後アメリカの日本人痴呆化・無力化戦略により、骨抜きにされてしまった。
日本の習慣は古臭いもので、アメリカこそが理想の国だと教わってきた。
ケイレツ、株式持合い、メインバンク制、終身雇用は市場の効率化を阻む悪い制度であり、
構造改革なくば日本の将来はないなどとゴタクを並べられ、
その通りやったあげくの果てが、超格差社会、環境破壊、安全神話の崩壊・・・
果たして、我々は、アメリカの言うとおりにして、幸せになったのでしょうか?
これからは、著者の提言どおり、
かつての日本人が持っていた良い面を全面に出し、
技術力に裏打ちされた来たるべき「環境社会」のリーダーを目指すべきなのだ。
ちょっと、熱くなりましたが、
最後に、いつものとおり、本書でマーカーを引いた箇所を抜粋します。

・グローバル資本主義の仕組みとはエリートが大衆を搾取するための
 「ツール」あるいは「隠れ蓑」として使われているだけではないか。
 あるいは、それらは「民主主義的な装い」によって固められているけれども、
 実は、支配のための便利な道具になっているのではないか。
・日本は世界的に見て、世界でも類を見ない平等主義的な社会であった。
 鎌倉時代から農民出身の武士が政権を握ったため、
 何もしないで支配するだけの特権階級が幅を利かす余地は小さかった。
 
 260年の平和を享受した江戸時代は日本社会の平等性をさらに強化した。
 江戸の町民は、物質面のみならず、文化的にも社会の担い手、社会の主人公として生きてきた。
 支配階級であった武士は「武士は食わねど高楊枝」と達観し、庶民を食い物にしなかった。
 これは世界史の中でも稀有な例なのではなかろうか。
 
 もしそうだとしたら、この事実は日本が世界に誇れる大きな歴史的財産であると思う。
 こういう平等主義的な社会的背景を持つ日本社会に、エリート階級の支配のためのツールである
 マーケット・メカニズムをそのままの形で鵜呑みにして導入することには問題がある。
・ローカルな資本主義においては資本家が労働者を徹底的に搾取することは、
 労使双方の共倒れを招いてしまう。
 地域に限定されたマーケットにおいては、生産と消費が一致しているのだから、
 消費を拡大するためには賃金をそれなりに上げないと、企業の収益も増えない。
 
 しかし、グローバル資本主義はつねに高低差を探し、作り出し、維持しようとするようになった。 
 かくして、グローバル資本主義は世界中で格差を拡大し、貧困層を作り出していくようになっていった。
・近代法における私有財産制度は、使用・処分・契約の自由に基づいている。
 こうした思想はそのまま「自分のものなら何をしようともかまわない」という考えにつながる。
 そして、土地さえも私有財産で、どのように使おうとかまわないとなれば、木を伐採しようが、
 川に何を捨てようともかまわないという話になる。
・今、地球上のあちこちで起きている猛烈な自然破壊、環境汚染は
 人間の経済活動、営利追求が産み出したものだ。
 「経済人」としての人間が利益を最大化するためには、自然を破壊しても許される。
 このような発想が生まれ、それが実践に移された原点には土地私有の自由化がある。
・アメリカ経済が世界一になったのも、ニューディール政策以後、政府による適切な企業統制、
 社会福祉政策や労働協調路線があったおかげであり、かならずしも市場原理のみの成果とは言えない。
 同様に、日本経済が戦後、これだけ飛躍したのも市場原理を超えて、
 企業間(ケイレツ)、企業と従業員(終身雇用)、金融機関と事業会社(メインバンク制度)、
 政府と民間部門の間(審議会制度)などの長期的関係を重視する戦略を採ったからに他ならない。
 
 相手を信じることによって、日本の企業は有形無形の形でコストカットに成功したといえる。
 
 日本企業の製品が世界中のマーケットで勝ち残るに至ったのは、
 日本企業が目先の利益を追わずに、長期的な顧客の信用を得ることを目的に
 良心的なもの作りに徹したからに他ならない。
・「売り手よし、買い手よし、世間よし」(近江商人の三方よし精神)
・「商売をする人は、一筋に正直の道を歩むべきであり、
  正直を貫けば、神仏の加護によって災難を避けることができ、万事うまくいく」
  (江戸時代の僧 鈴木正三「商人日用」)
・格差を放置しておけば、日本の「国力」そのものが決定的に低下しかねない。
・目先の金融危機の克服も重要であるが、それよりも貧困層の底上げ、所得格差の是正によって、
 日本という「国のかたち」を整え直すことこそが、日本の経済にとって最重要な課題になっているのだ。
・閉鎖的な島国の中で暮らしてきたことで生まれた「損して得取れ」という信頼第一の思想、
 あるいは階級意識が薄い社会であるがゆえに培われてきた「現場力重視」の思想など
 日本人には他国にはない思想、発想がある。
 こうした文化伝統を再発見することが、国際競争力につながってくるのではないだろうか。
 そういう意味では、日本は無尽蔵ともいえる未来への可能性を持っている国なのである。
・我々日本人にはアメリカ人やイギリス人のような金融の才能はない。
 サブプライム・ローンが象徴するように、
 儲けるためには貧しい人を食い物にしてもかまわない、
 紙くずになるのが分かっている「証券」を他人に売りつけても
 何の罪悪感も感じないといったような「合理主義」を、
 日本人は1000年かかっても身につけることはできないだろう。
・神による人間の救済をメインテーマとするキリスト教においては、
 自然を守るという感覚が生まれる余地はない。
 大事なのは人間と神との垂直的な関係であって、
 一神教においては自然は征服し、支配すべき対象でしかないである。
・日本人が持っている「自然は天から与えられたもの」、「人間は自然の中で生かされている」
 という考え方は、資本主義には存在しない。
・グローバル資本はこぞって環境規制の甘いところを狙って開発資金を投下している。
 あるいは、その巨大な資本力にもの言わして、各国の政治に影響を与えることによって、
 環境規制の強化に抵抗している。
・その結果、グローバル資本主義が発展する過程で、世界の環境汚染が拡大し、
 資源が無駄遣いされていくようになったのは、当然の帰結であった。
・そこで重要になってくるのが日本という国の存在ではないだろうか。
 日本は縄文時代以来、自然の中に神聖さを感じてきた歴史を持つ、先進国の中でもただ1つの国である。
 日本はすでに現時点においても、世界でトップレベルの省エネルギー技術、
 あるいは太陽電池など代替エネルギー技術を持っている。
 これからの日本は「環境保護の超先進国」となっていくべきではないかと考える。

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Comment

  1. ケッタン より:

    まさにそのとおりであります。
    しかし、わかっているけどいったいこれから
    どうしていけばいいのかがわかりません。

ケッタン へ返信する コメントをキャンセル

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