強さと脆さ
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本
世界的ベストセラー『ブラック・スワン』のタレブの新作。
というか、『ブラック・スワン』の第2版用に書き下ろされたものを日本では独立して1冊の本として出版した。
つまり、『ブラック・スワン』の一部だ。
相変わらずの、皮肉とユーモアで、内容の半分も理解できないけど、ぐいぐい引っ張り込まれ、一気に読んだ。
FRBやノーベル経済学賞、ウォール街といった虚構の連中に対して、上から目線で皮肉たっぷりにバカにするところが、とても痛快だ。
『ブラック・スワン』は世界中でベストセラーになったが、ちょうど時期が時期だけに、先般の2008年の金融危機のことを「ブラック・スワン」だとよく勘違いされる。
そうではない。
「ブラック・スワン」は主観的なものだ。
ウォール街やFRBや経済学者の連中にとってはブラック・スワンだったかもしれないが、タレブにとっては当たり前のことだ。
(ルービニも『大きなる不安定』で先般のリセッションはブラック・スワンではないと言ってる)
そもそも経済は、第四象限、果ての世界、そこは黒い白鳥が住んでる世界。
そこでは、ちょっとした誤差が破滅的な結果を与える。それは誰にも予測はできないし、破滅的なことが起こるのは当たり前だ。
だからあれこれ干渉するのはやめたほうがいい。
我々は変動を嫌い、あれこれ干渉し、経済すらも安定させることができると思った。
ボラティリティが低くなったことを、リスクが低くなったと見誤った。
変化の少ない環境を作ろうとすれば、ちょっとしたことで破滅的なことが起こるのだ。
あまり必要でもないのに抗生物質を摂取していると深刻な伝染病に罹りやすくなるように。
潔癖過ぎるとバイキン、ウイルスに対抗できなくなるように。
そんな世界を、あたかも数式を散りばめてコントロール可能だという経済学者は詐欺師のようなものだ。
自然の摂理にあがらうのでなく、自然の摂理に基づいた行動をすべきだ。
医業分野では、死亡率が下がったのは、抗生物質のおかげだ、治療のおかげではない。
にもかかわらず、医者たちに「何もしない」という選択肢はなく、治療をし続ける。
同じく、証券会社、銀行も「何もしない」という選択肢はない。
「何もしないよりも何かをしたほうがいい」というポジティブシンキングが何も知らない人々まで巻き込んだ。
母なる自然は無駄が大好きだ。
人間の体を考えてみればいい。
目は二つ、肺も二つ、腎臓も二つ。
経済学者かたみたらそんなものは無駄に見えるだろう。
もっと最適化しなければ。
でもいつか事故に遭ったり、異常値が出たときには死んでしまう。
だから経済学者にまかせられない。
経済学は私たちを欺き、吹き飛ぶようにしむける。
それは浅はかな最適化の上に成り立ち、経済学者の手によってヘタクソに数学化されている。
さて、本書ではブラック・スワンを和らげる知恵および社会について、以下のように述べている。
■ブラック・スワンを和らげるための知恵の原則
1.時の試練と、はっきりとは現れない知識に敬意を持つ
2.最適化を避ける。無駄を愛する事を学ぶ
3.確率の少ないペイオフを予測しない。
4.起こりにくい事象に「典型的な姿」なんてないのに気をつける。
5.ボーナスの支払いにはモラル・ハザードがついてまわるのに注意する。
6.リスク指標は避けて通る。
7.よい黒い白鳥か、悪い黒い白鳥か
8.ボラティリティが見られないのをリスクがないのと取り違えない。
9.リスクを表す数字を見たら気をつけろ
■ブラック・スワンに強い社会の原則
1.壊れやすいものなら、早く、まだ小さいうちに壊れたほうがいい。
2.損失を社会化し、利益を私有化してはいけない。
3.目隠しをしてスクールバスを運転していた(そして事故を起こした)連中は、二度とバスを運転させてはいけない。
4.「成功」報酬をもらえる人に原子力発電所を経営させてはいけない。
5.複雑なことは単純なことで中和する。
6.子どもにはダイナマイトを渡してはいけない。注意書きが貼ってあってもダメだ。
7.新来に支えられる仕組みなんてネズミ講だけだ。政府に「信頼を取り戻す」なんてことをさせてやらないといけないいわれはない。
8.ヤク中が禁断症状に苦しんでいても、麻薬を与えてはいけない。
9.市井の人たちは金融資産を価値の保蔵手段として使うべきではない。また、あてにならない「専門家」のアドバイスに老後の生活を託してはいけない。
10.オムレツは割れた卵で作る。
こうすることで、経済はやっと生物環境に近くなる。
企業は小規模、生態系は豊か、投機的なレバレッジの無い世界であり、銀行家でなく起業家がリスクをとり、企業は毎日のようにニュースになることもなる生まれては死んで行く。
そんな世界が実現する。
最後に、タレブから読者へ。
祖国レバノンの崩壊を目の当たりにしたタレブは誰よりもブラック・スワンの怖さを知っている。
それだけに、とても含蓄がある。
黒い白鳥に滅ぼされないために、哲学者セネカの言葉で締めくくる。
「汝の運命を愛せ」
「Vale(強くあれ、ふさわしくあれ)」
(セネカのエッセイの締めくくりの言葉)
(参考エントリー)
ブラック・スワン
http://pub.ne.jp/TakeTatsu/?entry_id=2318133
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Comment
>最適化を避ける。無駄を愛する
これは多様性の喪失の怖さを指摘しているんだね。
例えば畜産動物は効率を重視するあまり、クローンに近い状態になっている。だからひとつの病原体に対して、一斉に同じ反応(発病)を示すという指摘がある。
それが怖いからワクチンと抗生物質漬け。で、かえって高いコストを支払っている。
栽培農業も同じ。
病気が怖いからとクロピク(殺菌剤)で農場を消毒。すると土壌の多様性が失われ、一斉に発病するリスクが高まる。それが怖いからとクロピクを使い続ける。もう、麻薬のようなものだ。
そこから抜け出すには多様性をきちんと評価しなければならないね。つまり、無駄を許容するということ。
これ、人間社会や組織にも言えると思う。
社会から多様性が失われると、極端な話、社会がヒトラーから防御できないというようなことが起こる。
価値観の押しつけや偏在化は、実は怖いことだと。
多様性の喪失。
そうだよね。
「ブラックスワン」は効率を優先し多様性を喪失した社会への警告の書でもあるんだよね。
経済書、ビジネス書という枠組みだけでは片付けられないほど深い。