MAKERS ―21世紀の産業革命が始まる
もう何十年も前からのことだけど、
日本の人件費は高い、電気代も高い、税金も高い、何するにしても高い。
だから国内の工場を閉鎖し、中国などのアジア諸国に工場を移す。
もはや日本の製造業は空洞化、これは日本だけでなくアメリカ、西欧諸国も同じ問題を抱えている。
Appleやユニクロのように、本国では製品開発、デザインだけに特化し、人件費の安い国で製造をする。
中国の人件費が先進国なみに急上昇すると、お次は、ベトナム、タイ、インドネシア、はたまたカンボジア、ラオス、ミャンマーと、まるで水が高きから低きへ流れるように、少しでも人件費が安い国へシフトしていく。
もうこういうのは当り前になってきて別に珍しいことでもない。
頭脳のない人間、感性のない人間には雇用はなく、ただ絶望的な未来だけを待っている。
エルピーダ、ルネサス、シャープなどのニュースを見るにつけ、もはや日本における製造業に未来はないように見える。
もう遅過ぎるけど、アメリカのように、IT産業の世界へシフトしなければいけないのだろうか?
否、それはちょっと違う。
この本を読んで、そういった考えを覆された。
製造業は衰退したのでなく、新しい段階に入ったことに気づかされた。
ひとことでいうと、製造業の未来は明るい。
この本は希望の書である。
前作「フリー」で我々に驚愕の世界を教えてくれたクリス・アンダーソンの新作
「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」
もし、何かいい製品のアイデアを思いついたとしよう。
それを実現するためには、試作品を作り、いろんな会社や工場をまわり、説得して作ってもらわなければいけない。これはとても困難なことだ。個人で製品を具現化するのは大きな困難を伴う。
製造するにはある程度の資本が必要だ。個人には障壁が高過ぎる。
一方で、ソフトウェアやWebサービスの世界は違う。
スキルとアイデアがあれば、あとはPCとネットにつながる環境さえあればいい。
ネットが劇的に世界中に広がったおかげで、個人でも仲介者を通さずに、世界を相手にできる。
文字通りデスクトップで全てができる。
ビットの世界は完全に民主化された。
だから、創造力があり自立的、野心的な若者は、製造業よりもWEBの世界を目指す。
こうやって、アメリカではIT産業が活性し、経済を牽引している。
しかし、そうはいっても、アメリカの経済の75%は製造業であり、国家の礎は製造業にある。
いくら、IT産業が刺激的、創造的だといっても、我々はビットではなくアトムの世界に生きている。
製造業は衰退しているという人が多いけど、よく目を凝らせば、最近は新産業革命とでも呼べる現象が起こっている。
製造業がビットの世界と融合しつつある。
製造業の世界もビットの世界同様デスクトップ化してきている。
さながら、デスクトップ・パブリッシングのように、デスクトップ・ファブリケーション(モノ作り)とでもいえる状況が現実のものとなっている。
わかりやすくイメージすると、
PCでデザインし、製造はどこかの工場でするということ。
自宅のPCで、イラストレーターやCADを使ってデザインする。
一から作るのは大変なので、データをネットからダウンロードし、加工するということもできる。
リナックスに代表されるオープンなビット社会では、たくさんのデータが公開されている。
そういったデータをもとにレーザーカッターや3Dプリンターで印刷(製造?)する。
レーザーカッターや3Dプリンターで製造してくれる会社もあるし、今や3Dプリンターは個人でも入手できる価格になっているので、その気になれば自宅でもできる。
夢物語と思うかもしれないが、30年前に一家に一台プリンターがある世界なんて想像したか?
それと同じことが、起こりつつあるというか、起こってる。
さながらパソコン黎明期の1980年代中旬の頃に酷似している。
3Dプリンターでは、素材は限られているので、複雑なものを作ることはできないが、試作品としては十分だ。何度も試作して、いいのができたら、工場に大量生産を頼むといいし、そもそも大量生産なんかする必要はない。Webで販売し、注文に応じてジャストインタイムで作ればいいだけだ。
いまは、こういった少量製造に応じてくれる業者がたくさんある。
もはや、誰もが製造業になれる。
誰もが、メイカーズになれるのだ。
自分のアイデアを具現化するために、頭を下げて、工場を回らなくてもいい。
データファイルを添付し、必要な数量を入力し、あとは送信ボタンを押すだけだ。
資金調達も、銀行をまわらなくてもいい。
クラウドファウンディングがある。
クラウドファウンディングの魅力は、資金調達だけでなく、事前に売れるかどうかもある程度参考になる点だ。そのプロジェクトに対して、自分で設定したある一定数の資金を集められないと、資金を調達できないという仕組だからだ。
これは資金調達活動をしながら売れるかどうかのマーケティングができるという点で、資金の脆弱なスタートアップにとって、とても魅力的なことである。
そして、販売はもちろんソーシャルネットワークだ。
頭を下げて小売店をまわらなくていい。
こういった、これからのメーカーズは、生まれた瞬間からグローバル企業だ。
はじめからオンラインで販売するので、既存の流通や地理に拘束されない。輸入品によって打撃を受けることもない。
優秀な人材も世界中から確保できる。国籍、学歴関係ない。スキルがあるかないか、それだけだ。
「かつては海外の安い労働力だけが安く手に入った。いまでは海外の天才が安く手に入る」
(トーマス・フリードマン)
こういったもことは、ニッチな特注品だけのことで大きなムーブメントになるかどうか怪しむかもしれないが、事実、アメリカでは7年前くらいから起こり、急成長している。
それに、産業ロボットの進化による工場のオートメーション化により、国内での製造のコストは、新興国でのコストと遜色なくなりつつある。ある試算によれば、中国での製造コストは2015年にはアメリカに並ぶという。
こういった背景により、カントリーリスクを考え、アメリカでは工場が自国に復活する流れもある。昨今の尖閣問題を考えれば我が国にもあてはまる。
人件費の低い所へ低い所へと工場を移動させる流れは、そろそろ一段落するであろう。
といっても、強力なサプライヤー群を構成する中国の役割が無くなる訳でない。
携帯電話などの大量生産品は依然として中国だろうが、それが唯一の選択肢ではないということだ。
そのときそのときに一番合理的な場所で作ることが選べるというだ。
インターネットは、ソフトウェアから音楽まで、データ化できるものは、中間業者を排除して、全て民主化した。
今度は、現実の世界で、それが起きようとしている。
かつて、トーマス・フリードマンが「世界はフラット化した」といったが、
本当のフラット化がそろそろ始まる。
私たちには二通りの未来がある。
人に言われて安い給料で黙々と既製品を大量生産する未来と、
創造力を発揮して、自分でデザインしたものを誰かに作らせる未来。
ワクワクしてきた。
とりあえず、
3Dプリンターが欲しくなった。
【参考図書】
クリス・アンダーソンの前作「フリー」
http://pub.ne.jp/TakeTatsu/?entry_id=2722293
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