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天使の分け前

公開日: : 最終更新日:2017/02/05 映画感想文

ケン・ローチ監督の最新作
「天使の分け前」を観ました。

ウイスキーは、樽熟成して味わいが増していくものですが、その一方で毎年2%蒸発して失われていきます。
その失われていく部分のことを「天使の分け前」(Angels’ Share)というそうです。
なんという素敵な表現なんでしょうか。

この題名のとおり、全編ウイスキーな映画です。
ウイスキーのことはさっぱり知識がない私ですが、観賞後おもわずウイスキーを飲みに行ったほどです。
これは、主人公が息子が生まれたお祝いとして初めて飲んだウイスキー「スプリングバンク」
(映画では32年もの)

いやー、至福の時間。

おっと、話を戻しますと。
私は、映画ファンのくせに、お恥ずかしながらイギリスの巨匠ケン・ローチ監督の映画を観るのは2本めです。
たった2本しか観てませんし、イギリスに住んだことないのでエラそうなことは書けませんが、私が今までの人生で、本や映画、音楽から得た偏見を交えて綴ります。
以前観た同監督の「マイネームイズジョー」という作品では、アル中の主人公の視点でスコットランドの労働者階級のダラダラした日常が描かれていました。
よく考えたら、今まで私が観たイギリス映画はおおむねそんなのばっかり。
古くは「さらば青春の光」にはじまり、
アラン・パーカーの「ザ・コミットメンツ」、ガイ・リッチーの初期の作品、「トレインスポッティング」、「リトルダンサー」
などなど、基本的に主人公は失業者で、周りはみんなヤク中、アル中という映画ばかりでした。
好きなロックミュージシャンも、みなチンピラみたいのばかり、
オアシスにしても、ストーンローゼス、古くはビートルズ、ストーンズなどなど
こんなことで判断するのも変なことですけど、
私の中のイギリス人に対するイメージは、およそジェントルマンとは遠いです。
階級が固定化され、大きな格差があり、若者は未来に希望をもてず、失業手当をもらいながら、地元の仲間とつるみ、ラリって、ダラダラすごし、たまにサッカー場であばれてストレス発散というような偏ったイメージを持っています。
決してロンドンのトラファルガー広場に集まるようなクールなファッショナブルなイメージは私にはありません。
決してテムズ川沿いで愛をささやき合うようなオサレなイメージは僕にはありません。
まあ、これって偏見なんでしょうけど。。。
反対に日本人はみんなサムライとかクールジャパンって思われてると同様なことかもしれませんけどね。

この映画の登場人物もそんなどうしようもないヤツらばかり。
しかし、ケン・ローチ監督は、そういった、どうしようもない人たちに優しいスポットライトをあてます。
この映画の冒頭部分はケン・ローチ作品らしく社会の底辺の非情な現実が描かれていますが、たまたま主人公にウイスキーのテイスティングの才能があったことから、彼の人生は大きく変わり始め、決して労働者階級の人にはありえないであろう成功物語(ファンタジー)に変わっていきます。
とても地味だけど爽やかな感動を与えてくれます。

ケン・ローチ監督は、一貫してイギリスの労働者階級、移民の映画を撮り続けています。
サッチャーの政策により、たしかに経済はよくなったが、国民は悲惨な目にあっている。
彼らにスポットを当てることで、イギリスの病巣を浮き彫りにします。

我が国は階級社会ではないですが、中間層は消滅しつつあり、一億総中流社会はもはや過去の話です。
そして、収入と教育には正比例の関係があるため、階級はないといいながら、実質的に階級は固定化しつつあります。
イギリスの現状は、明日の我が国を見ているようです。
天才的なウイスキーのテイスティングのような特殊技能がないかぎり、
または、バンドで一発当てないかぎり、サッカー選手にでもならないかぎり、
我が国も階級を飛び越えることが不可能な時代になりつつある(いや既になっている)のは確かです。

ちなみに、ケン・ローチ監督がどんな人なのかは、これを読んだらなんとなく分かるかも。
サッチャーが亡くなった直後のケン・ローチ監督のメッセージを一部抜粋しました。
http://www.informationclearinghouse.info/article34552.htm

Margaret Thatcher was the most divisive and destructive Prime Minister of modern times.
Mass Unemployment, factory closures, communities destroyed – this is her legacy.
She was a fighter and her enemy was the British working class.
How should we honor her?
Let’s privatize her funeral. Put it out to competitive tender and accept the cheapest bid. It’s what she would have wanted.
マーガレット・サッチャーは、現代で最も不和を生じさせ、最も破壊的な首相だった。
大量失業、工場閉鎖、地域社会の破壊、それが彼女の遺産だ。
彼女は戦士で、彼女の敵はイギリスの労働者階級だった。
一体どうして私たちは彼女を称賛する必要があるだろう?
彼女の葬儀は民営化しよう。競争入札にして、一番安い応札者に決めよう。彼女はそれを望んだことだろう。

 

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