映画『アクト・オブ・キリング』からインドネシアの歴史の暗部を知る
殺人は許されない。
殺した者は罰せられる。
鼓笛を鳴らして大勢を殺す場合を除いて。
(ヴォルテール)
世界第4位の人口を有し、BRICsに続く成長市場として注目されるインドネシア。
そんなインドネシアだが、暗く恐ろしい歴史があることを僕は知らなかった。
1965年に赤狩りと称する100万人以上の大虐殺があったということを。
ドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』を観た。
虐殺や戦争を題材にしたドキュメンタリーって、被害者側からの証言をもとに、加害者を追求するのが普通なのだが、本作は真逆だ。
加害者の視点から大虐殺をとらえる。
(以下ネタバレ注意)
本作は、
虐殺の加害者たち自らが当時の大虐殺を再現した映画を撮る模様を追う。
主人公は1000人殺したという英雄のアンワル・コンゴ。
もう白髪のジジイだ。
コンゴは、喜々として楽しそうに、オレは何人殺したとか、この場所でこうやって殺したんだと過去の輝かしい栄光を演じて見せてくれる。
ファレルのHappyが世界中で大ヒットしている。
コンゴは、オレはHappy と、楽しそうに笑いながら、殴り殺すのは血を掃除するのが大変なので、針金で首を絞めて殺すほうが血が出ずに簡単に殺せたんだ、とインタビューに答える。
胸くそ悪い。
こいつらの話を聞いてると、
善悪の価値観がおかしくなりそうになる。
オレたちはフリーマン、自由の人なのだ。
何をやっても許される。
当時はそういう社会だったからしょうがない。
とか都合のよい言い訳をする。
「命令に従っただけ」という
ナチスのアイヒマンを思い出す。
しかしながら、虐殺を再現するにつれ、コンゴの表情が徐々に変化していく。
この腹ただしい映画は違った展開に向かう。
自分の体験を映画で再現し、追体験することで、コンゴは自らの罪を徐々に認めだしたのだ。
オレはこんなヒドいことをした、父親を殺された子供の将来はどうなるんだろうとか、被害者の心情を慮るようになり、殺した人間の悪夢にうなされることも告白するようになる。
最後に、拷問され処刑される人間の役をコンゴ自身が演じたところで、彼は自らの業の深さを思い知る。
完成した映像を見て涙を流す。
映画の冒頭で「ここでたくさん殺したんだ」と笑いながら語った場所で、彼は感極まって嘔吐しまくる。
いまさら気づいたところで、決して許されることではない。
許されることではないが、虐殺の加害者は、普段はみな普通の人間なのかもしれない。
この5月で20年を迎えるルワンダの大虐殺もそうかもしれない。
普段は普通の人間だったはず。
ナチスもそうかもしれない。
ポルポト派もそうかもしれない。
現代もアフリカ、中東のどこかで虐殺が行われている。
貧困と無知につけこんだ真の敵が、自分の手を汚さずに虐殺を指揮している。
貧困がなぜいけないのか。
教育がなぜ大切なのか。
こういう事実を知るにつき、いつも思う。
PS.
現地スタッフの名前がANONYMOUS(匿名者)ばかりだったエンドクレジットがとても異様で、事の重大さを実感させられた。
PS.
当時失脚したスカルノ大統領の第3夫人だったデヴィ夫人は本作をたいへん気にいり、「日本のみなさんもインドネシアで過去こういう悲劇があったことを知ってほしい」と試写会でマスコミに訴えたのにもかかわらず、翌朝のテレビ、スポーツ新聞ではまったく映画の内容に触れず、「デヴィ夫人、川島なお美と電話」、「デヴィ夫人、平手打ち」という記事だったという。
日本のマスコミって、いったい。。。。
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