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プルーストとイカ

公開日: : 最終更新日:2017/05/28

「むかし、むかし、あるところに・・・」
子どもの頃、寝る前に布団の中で、母親から本を読んでもらうのが、とても好きだった。
私の家には、いろいろな本や図鑑がたくさん置いてあった。
とはいえ読書を強要されたことはないし、自然に本を読むようになっていた。
そういう環境を与えてくれた両親に感謝したい。
生後5年間の環境が将来を左右すると言われる。
読字の学習は、幼児がひざに抱かれて、初めてお話を読んでもらう時から始まる。
幼児期に本に触れる時間が多いか少ないかで、将来大きな差となって現れる。

本日は、
人間にだけに与えられた「読む」という能力を、脳科学的、哲学的に解明しようとする
『プルーストとイカ』
を紹介する。

私たちは当り前のように本を読んでいるが、「読む」ということは、当り前のことではなく、とても奇跡的なことである。
人類が2000年をかけて構築してきたことを、我々は生後2000日間で習得するという奇跡が起こっている。
本書の題名にあるフランスの作家プルーストによれば、

読書とは、人間が本来ならば遭遇することも理解することもなく終わってしまう幾千もの現実に触れることができる一種の知的”聖域”である

我たちは、家でくつろいだまま、ベッドの中で寝ながらでも、本を読むことで、人生を一変することができる。
読書している間は、自分の意識を抜け出して、年齢も文化も違う他人の意識に入り込むことができる。
神学者ジョン・ダンは、これを「移入 (passing over)」と呼んだ。
読書後、けっして元の自分には戻らない。
必ず心は豊かになる。
他人の意識を直接体験することで、自分自身の考え方に共通性と独自性があることを知る。
自分は1個の人間であるが、1人きりで生きている訳ではない。と悟る。
この悟りの瞬間、自分の思考の境界から解放される。
こういう経験は、とくに子どもたちにとっては、何よりも大事なことである。
自分の未来像をも変化させるからだ。
読む能力を司る脳は遺伝ではない、読むことによって形成されていく。
親が本を読まないと、子どもが本を読むわけが無い。
幼少期の読書体験の有無は、大きな差になる。

言語による脳の使用場所の違いを考察した章も興味深い。
英語を使うとき、中国語を使うとき、日本語を使うとき
これらは、それぞれまったく違う部分を使っている。
確かに、英語の書籍を読むときは、違う脳が活性化されている感はあるし、
長時間英語を読むととても脳が疲れる。
私は、語学学習は筋トレと同じだと思ってる。
英語なら英語脳をたくさん使い鍛えることが習得への道なんだと思う。
だから毎日3時間英語に触れるようにしている。

そして、本書の大きな特色は、ディスレクシア(読字障害)についての研究、洞察だ。
ディスレクシアの研究は、素早く泳げないイカの研究に似ている。
素早く泳げないのに、サバイブしているということは、独特な能力を持っているはずだからだ。
同等にディスレクシアもしかり。
多くの発明家、芸術家、資本家たちが、子どものころにディスレクシアだったと言われている。
トーマス・エジソン
アレクサンダー・グラハム・ベル
チャールズ・シュワプ
レオナルド・ダ・ヴィンチ
アルベルト・アインシュタイン
などなど
ディスレクシアの研究によって、そもそも脳は文字を読むように配列されてないことが分かった。
なぜ、ディスレクシアになるのかを研究することで、ディスクレアに対する偏見をなくすとともに、社会に貢献できる資質を持ちながら活かされていない多くの子どもたちの失われた可能性を取り戻すことができるし、よりよい社会を構築できる未来の社会人を数多く生み出すことができる。
そして、より多様性あふれる魅力的な社会になり、未来を今よりも良い方向に変えることができるはず。

最後に、
今は読書に革命が起きている。
紙よりもKindle、iPadなどの電子書籍、インターネットブラウザの文字を読むことの方が多くなってきた。
こうしたなか、2000年かけて構築してきた「読む」ことに必要な脳の配列も変わって行くのだろうか?
文字を読む為に配列された脳で得たスキルが、デジタルネイティブ世代のスキルにとってかわったとき、私たちは一体何を失うのだろうか?

その問題を解く鍵は2500年前にある。
ギリシャの偉大な哲学者ソクラテスは書き言葉を否定した。
文字は記憶力を低下させ、知識を使いこなす能力を失わすという理由で、生涯ただの1語の文字を書かなかった。
私たちは知っている。
ソクラテスの考えは間違いだということを。
文字を読むことによって脳がそれまでよりも深く思考する時間が生まれたからだ。
著者はこれを「時間を超越して思考する時間」と呼ぶ。
では、インターネットはどうなのか?
何でもググって、ウィキペディアで調べて、コピペし放題。
インターネットは、記憶力を低下させ、知識を失わせるのか?
まだ答えは分からない。
ただ、より脳が深く思考する時間が生まれていることは確かだ。
インターネットの出現により、「時間を超越して思考する時間」はさらに加速した。
人類は新たな段階に入ったのかもしれない。

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