ウォール街の超高速取引を描いた『フラッシュ・ボーイス』を読んで
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最終更新日:2018/01/14
投資, 本 ウォール街, フラッシュ・ボーイス, 取引
「ジョジョの奇妙な冒険」という漫画が好きだ。
僕が小学生の頃に始まったので、もう30年続いている。
たくさんの個性的な敵キャラがいるが、その中でも最強だと思うのが、第6部のラスボス「プッチ神父」だろう。
プッチ神父は、最終的に
「超高速で動く」
という能力を身につけた。
超高速だから、どんな策も通用しない。
最強だ。
投資の世界で、最強な方法が1つある。
超高速だ。
超高速で取引することだ。
もし、同じ会社の株価が、東京市場で100円、大阪市場で120円だったらどうする?
東京で100円で買って、大阪で120円で売れば、儲けることができる。
裁定取引ってやつだ。
とはいえ、価格差はすぐに調整される。
そう、すぐに調整される。
では、調整される時間よりも早く動けばいいのではないか?
「すぐに」以上に超高速に取引すればいいのではないか。
これが超高速取引だ。
『フラッシュボーイズ』という本を読んだ。
リーマンショックの闇を暴いた「世紀の空売り」のマイケル・ルイスが、約4年前に発表し、世界中でセンセーショナルを起こした本だ。
2年前にブラットピット出演で映画化されたのも記憶に新しい。
「世紀の空売り」では、サブプライムローンの闇を暴いた。
今回は「超高速取引」の闇を暴く。
サブプライムローンという錬金術で世界中を混乱させたウォール街の投資銀行の連中は、誰にも気づかれずに大儲けできる方法を進めていた。
超高速取引だ。
超高速取引にはいろんな種類があるが、分かりやすい例は、超高速の裁定取引だ、
低い市場で安く買い、高い市場で高く売る。
それを超高速に売買する。
超高速取引と聞くと、凄いスーパーコンピュータが凄いアルゴリズムで凄いことをしているイメージだがある。確かに、それもそうだが、もっとリアルなところ、取引所に自社のサーバーを置くとか、取引所と取引所の間に、光ファバーを敷くとか、そういったリアルなことが重要になっているところが面白い。
大きな変動はまずシカゴの先物市場で起こり、それから各市場の銘柄に押し寄せる。この動きを察知して、ニュージャージーのコンピューターにシカゴの価格変動を事前に知らせる。市場が気づく前に、売買する。
我々投資家が注文してから成立する間の、ミリ秒単位のわずかな時間の間を利用し、掠め取っている。
例えば私の成り行き注文が1000円で成立する直前の一瞬に、超高速取引業者が割り込んで1000円で横どりし、一瞬で1010円で誰かに売ると、私の取引は1010円での約定になってしまう。
本来なら1000円で買えたものが、気づかない間に1010円になってしまう。
数ミリ秒の間の出来事なので誰も気がつかない。
こうやって、一般人から掠めとる。
自分は投資をしないから関係と思うなかれ。
運用額の大きい年金基金からも超高速で掠めていた。
ズルイと思うが、違法ではない。
しかし、市場の透明性・公平性を損なう行為だ。
超高速取引業者は、企業の健全な成長、業績を元に売買をしている訳ではない、
超高速で他の参加者の先回りをしてサヤを取っているだけだ。
全く経済に貢献していない。
ただ儲ける為だけの守銭奴にすぎない。
超高速取引が隆盛を極めていた2010年代初頭、世界中からすごい頭脳が超高速取引のためにウォール街に集まっていた。
フェルミ研究所にいたフランス人の素粒子物理学者、ロシア人の航空宇宙工学者、電子工学のインド人博士もいた。そんな人たちが何千人もいた。
こんなにも、たくさんの凄い頭脳が、投資銀行の一員になって、社会的な問題を解決するんじゃなく、投資家から搾取してるなんて。
サブプライムの時もそうだったが、一体、何の為の頭脳なのだろうか。
「ジョジョの奇妙な冒険」の最強の敵プッチ神父は、酸素によって倒された。
どんなにスピードがあっても、密室での酸素中毒には敵わない。
超高速取引業社は、世間の批判や、設備投資負担で、最近は淘汰されつつある。
本書の主人公ブラッド・カツヤマ氏は、超高速取引できない取引所を2年前にオープンした。
どんなにスピードがあっても、スピードを無効にされたら敵わない。
リーマンショック以降、世界の頭脳は、GREED(強欲)なウォール街ではなく、世界を変えることができるシリコンバレーに向かうようになり、グーグルやフェイスブック、アップルなどのIT企業はかつてない輝きを見せている。
と表向きには見えるが、ヘッジファンドや投資銀行は、IT企業以上に人工知能の人材を世界中から集めているらしい。
「人工知能が金融を支配する日」という本にそんなことが書いてあった。
超高速取引は下火になったかもしれないが、次は、人工知能が金融を混乱に陥れるのではないかと言われる。
我々の知らない間、規制当局も気がつかないマイクロ秒、ナノ秒という世界で、次のブラックスワンの火種が発生しているような気がする。
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