ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日 (ネタバレあり)
(注意)ネタバレあり
インド人の少年が、獰猛なトラと一緒に太平洋を漂流するというお話。
太平洋の荒波、美しい大自然、
一体、どうやって撮ったのか、どこまでがCGかもはや見分けがつかない。
本当に現地で撮ったとしか思えない映像に圧倒されます。
まさにディスカバリーチャンネルのような映像に息をのみます。
また、全編に神の存在を感じる宗教的な映画でもありました。
主人公は、ヒンズー教、キリスト教、イスラム教を信じます。
彼は、絶望の状況で、嵐の中に天に向かって叫びます。
「全てを捧げます。これ以上私たちに何の試練を与えるのですか」
大自然は無慈悲な存在であり、神は絶対的な存在なのだということを改めて感じる印象的なシーンでした。
人間とトラは絶対に理解し合うことができない。
トラは人間よりも食物連鎖の上位にいる存在だからだ。
それを観客に刷り込むための冒頭のシーンが伏線としてあるおかげで、物語全体にいつトラに捕食されるのかという絶対的な緊張感をあたえています。
しかし、主人公とトラは同じ極限状態を経験することで、徐々にどことなく微妙な絆ができていきます。
物語が進むにつれ、トラがカワイイ存在に思えてきます。
トラがたまらず海に飛び込んで、船にあがれなくなったときの、あの表情。
夜の星空を見て物思いにふける様子。
主人公が浮島を離れる時に付いてくる様子。
お互い衰弱の限界となり、死を受け入れた主人公が泣いてトラを抱き寄せるシーンにはとても感動します。
なので、最後にあっけなく森に去って行ったトラの様子には、主人公と同様に悲しくなりました。
やっぱりトラと人間は分かり合えないのかと。
と、ここまでは動物ファンタジーな映画。
その後、主人公はメキシコの病院に入院し、保険会社の人間から調査を受けます。
このあたりから、物語の雲行きが怪しくなってきます。
トラと一緒に漂流したことをまったく信じない調査員に対して、主人公は作り話をします。
数名の人間が漂流し、殺し合い、最後は自分1人だけが生き残った
という話にしました。
私は、このシーンは一体なんのためにあるんだ、今までの感動がぶち壊しじゃないか。とドン引きしました。
しかし、こう観客に思わすことは、アン監督の狙い通りだったのでしょう。
途中で私も気がつきました。
このラストのおかげで、この映画は単なる感動ファンタジー映画では無くなりました。
ラストで観客は突き放されます。
物語の真実は観客に託されます。
おかげで観賞後もずっと物語を反芻させられます。
ドン引きした私はアン監督の術中にはまってしまったのです。
もう一つの物語ならば、とても凄惨な漂流生活です。
ちなみに、このトラは「リチャード・パーカー」という変わった名前です。
この名前の恐ろしい由来を知れば、この物語はより深淵なものになります。
リチャード・パーカーについて
http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/sp/sync.html
お互いが殺し合う凄惨な漂流生活も、動物に例えれば、美しいファンタジーになりえます。
とはいっても、事実はどちらか分かりません。
どちらの物語を選ぶのか、それは観客に託されます。
大人になった主人公の話をずっと聞いていた作家は、こう答えます。
「トラの話の方がいい」
保険会社の調査員もトラの話を選びます。
大衆は美しい物語を求めるもの。
私もそう。
そうやって、物語は語り継げられていく。
そうやって、神話は作られて行く。
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Comment
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 ヴィシュヌの神と10のアヴァターラ
2012年 アメリカ
この作品は一見、現実的でありながらも「ファンタジー」です。大海原のボートの中に「トラと少年」。何故、こんな状況に??映画予告だけで興味をそそられました。原