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大いなる不安定

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先般の金融危機は「100年に一度」ではない。
ましてや「ブラック・スワン」でもない。
かなりの確率で起こる「白い白鳥」だ。
バブルがバーストしただけ。
珍しいことではないし、予測可能だ。
本書は、過去の様々な世界中の金融危機と今回の危機を対比させる中で、金融危機は珍しい事ではなく予測可能なことであると述べる。
FRBがバブルを放任せず、どんどん市場に介入すれば、今回の危機はある程度防げたはずだと。
そして、金融危機の原因を解説し、解決法を提示し、今後の世界経済も予測する。
と書けば、本書は難しそうな印象を受けるがそうでもない。
今回の金融危機をユーモアあふれる比喩をからめ、分かりやすく総括した内容に、金融機関の人間はもちろん、社会人、学生に、推薦したい。

さて、本書をかいつまんで述べると、

先般の危機は、サブプライムだけのせいではない。
サブプライム以前からの経済の根本的な構造変化に根ざしている。
低品質のモーゲージローンが原因ではなく、低品質の金融システムが危機の原因なのだ。
歪んだ報酬制度、腐敗した格付け機関など、数々の問題のために既に世界の金融システムは腐っていた。それが表面化しただけだ。
それらに気づいていたにも関わらず、前FRB議長グリーンスパンは、市場は効率的であり政府は市場に介入すべきではないという考えで傍観していた。
それがこの結果だ。
しかし、現FRB議長バーナンキは、あらゆる手を使い、金融危機を沈静化させた。
その代償は大きい。
ゾンビ銀行はもとより影の銀行システムまでも救済し、今後のモラル・ハザードが心配される。
危機になればFRBが助けてくれる。じゃあリスクをとっても大丈夫なんだと。

さて、金融危機を防ぐためにはどうすればいいか?

まず、金融機関の報酬が多すぎる。
だから社員は短期的な成果を求める。だから危険な商品に手を出す。
だって会社が破綻したところで関係ないし。
いわゆる「代理人問題」だ。
それに創造力ある優秀な人材が製造業など実体経済を支える産業から逃げ出しウォール街に集まっている。
これは大きな社会的損失だ。
だからこそ、金融機関の報酬については、政府がある程度関与する必要がある。

それに、証券化の仕組みも変えなければいけない。
でも、証券化商品というソーセージに何の肉が入ってるかは分からないし、調べるのは大変だ。
それよりもソーセージに入れる肉の品質管理をするべきだ。
そう、ローン自体を規制すればいいのではないか。

そして、格付け会社という食肉検査官も改革が必要だ。
格付け会社のコンサルティングサービスやモデリングサービスは禁止すべきだ。
教授が学生にテスト問題を教えて報酬を得るようなものだから。
これでは公正とはいえない。

格付け機関すら関与できないCDSなどの金融派生商品への規制はどうする?
CDSを全面的に禁止するのは難しい。
となると、そもそも銀行がこのような取引をしないように、銀行業務を退屈な業務にするように規制を強化するべきだ。

さらに、そもそも、銀行が「大きすぎて潰せない」、「関連しすぎて潰せない」からいけない。
金融機関を分割し、その活動を分離するべきだ。

もっというと、1国だけの問題ではない。
IMFを強化し、新しい国際準備通貨なるものを供給する権限を与えるべきだ。

などなど、簡単にいえば、銀行および影の銀行を放任してはいけない。もっともっと規制すべきだ。ということ。
リバタリアンが聞いたら激怒するかもしれないが、銀行は重い規制を課されているからこそ、最後の貸し手である中央銀行から国民の税金を使って助けてもらえる資格があるといえば納得しよう。

さて、今後の世界経済だが、
過去の例を見ていくと、現在はとても危ない状態らしい。
過去には今回のような国際金融危機の後にソブリン債務不履行と通貨危機の大波が押し寄せる場合が多かったからだ。
いまだにくすぶっているヨーロッパのソブリンリスクの行方は、どうなるのだろう?
引き続き、余談を許しません。

最後に、本書では我が国についても述べているが、とても絶望的な意見だ。

民主党は、多額の国の補助金や記録的な財政赤字に依存する政策をとっている。
このような政策では国の債務は拡大し景気は低迷する可能性は高い。
それに民主党政権は財界との結びつきが弱いので、高成長をもたらすような構造改革を実行できる機会はほとんどない。
この結果、日本はきわめて危険な立場に立つことになろう。
財政赤字の急増と経済の硬直化で想像を絶する事態、つまり、政府債務危機やインフレ率の急騰、そして、かつては世界経済を支配すると思われた国の決定的な衰退を招きかねない。

そのへんのトンデモ本の作者が言ってるんじゃない。
ルービニが言ってるんだ。
ホンマやばいかも。

【関連書籍】
ブラック・スワン(ナシーム・ニコラス・タレブ)
http://pub.ne.jp/TakeTatsu/?entry_id=2318133
バーナンキは正しかったか?(デイビッド・ウェッセル)
http://pub.ne.jp/TakeTatsu/?entry_id=3343226
金融危機後の世界(ジャック・アタリ)
http://pub.ne.jp/TakeTatsu/?entry_id=2666637

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