*

人間の感覚を失う恐怖〜「サウルの息子」を観て

公開日: : 最終更新日:2016/03/21 映画感想文 , , , ,

 

 

 O0550077713552012566

 

 

 

 

numb

発音nʌ’m

 

(形容詞)麻痺している、感覚を失った

 

 

 

「サウルの息子」というハンガリー映画を観終わって、なぜか頭の中に出てきた単語だ。

 

 

 

ナチスによるホロコーストで、

ユダヤ人を毒ガス室へ誘導したり、死体の撤去、衣服からの金品の強奪、毒ガス室の掃除などは、同胞であるユダヤ人にやらせていた。

彼らはゾンダーコマンドーと呼ばれていた。

 

映画「サウルの息子」は、アウシュヴィッツのゾンダーコマンドーのサウルが、自分の息子を人間らしく埋葬するべく収容所の中を奔走する様子を描く中で、アウシュヴィッツの実態を一個人の目線から描いた作品である。

 

 

サウルは、ガス室で奇跡的に生存した少年を目にするが、すぐにナチスに殺される。

サウルはその少年を自分の息子だという。

その少年を人間らしく埋葬するために、収容所の中でラビ(ユダヤ教の聖職者)を探し求める。

人間の心が麻痺した世界で、人間性を保持したい。

私が思うにはおそらく息子ではないが、この絶望の世界の中で見つけた一縷の希望、自分が人間であると感じられる希望を見つけた。

彼を人間らしく埋葬することで、サウル自身の人間としての尊厳を守ることができ、生きる目的となったのだろう。

 

 

 

この映画の大きな話題になっている点は、その映像表現である。

 

カメラはずっと、主人公のサウルを追い続ける。

サウルの上半身のアップが2時間ずっと続く。

私たち観客はサウルと一体になり、アウシュヴィッツを体感する。

サウルの背景は近眼のようにぼけており、サウルのまわりで起こっていることははっきりとは見えない。だからこそより凄惨な現場の想像力を掻き立てられる。ぼけた映像から、私たち観客は地獄絵図を想像する。


 

ぼけた画像はサウルが見る世界を描いてるのだろうか。

誰もがあの現場を直視できないと思う。

感情を切り離して他人事と感じることが、自分の精神を崩壊させずにすむのだろう。

登場人物たちは、どこか他人事で、黙々と作業をしている。

虐待を受け続けた人間は、心を閉ざすことで自分の精神を守るときいたことがある。

人間の心を無くすことが、自分を守る術に違いない。

 


冒頭のガス室のシーン。

ユダヤ人をガス室へ送り込み、その重い扉が閉められる。

重い沈黙の数秒後、阿鼻叫喚の叫び声がはじまり、ここから出してくれとばかりにドアを叩く音が耳をつんざく。

僕は耳を塞ぎたくなるほどの戦慄と恐怖を感じたが、同朋をガス室へ送り出したゾンダーコマンドーの表情はうつろで無表情で、人間の感情を読み取ることができない。

完全に人間の感覚が麻痺しているかのようだ。

 

そのような、どこか麻痺した感じの映像が2時間近く続く。

 

 

 

 

本作品はとても地味だ。

「シンドラーのリスト」のような英雄的な美談、感動のドラマ、大きなメッセージは無い。

たんたんと、1人の男の周囲2、3メートルで起ったことを流しているだけだ。

 

しかし、そのシンプルな手法に、いつだれの身に起きてもおかしくないリアル感、人間が人間の感覚を失う恐怖感、numbで絶望的な感覚が、ずっしりと伝わってくる。

 

 

 

 

 

先週の金曜日のニュースステーションで古舘がいっていた。

世界一民主的といわれたワイマール憲法で、ナチスドイツが生まれた。

我が国にも、ナチスのような政党が台頭することも、夢物語ではないと。

 

 

 

 

 

numb

発音nʌ’m

 

(形容詞)麻痺している、感覚を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ad

    この記事が気に入りましたら、ぜひTwitter、facebookボタンをお願いします。
    ブログを書くモチベーションになります。よろしくお願いします。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事が良かったらビットコインで寄付をお願いします。
ビットコイン投げ銭ウィジェット



関連記事

映画って楽しければいいじゃん 〜「グレイテスト・ショーマン」を観て

      「グレイテスト・ショーマン」という映画を観た。   一言で言うと、   ヒュー・ジャック

記事を読む

歩いても歩いても

世間は盆休みモードで、田舎に帰省している人も多いことでしょう。 盆休みの雰囲気を感じる中、 ふと、以

記事を読む

事前知識ゼロのオッサンの『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の感想(ネタバレあり)

事前知識ゼロ、このポスターのビジュアルだけしか知らない状態で観た。   私の属性は ・50歳の

記事を読む

パリが舞台の映画を観て、パリに祈る(パリが舞台のオススメ映画5選)

          今回のパリのテロは、世界中に衝撃を与えました。   私はパリには1回観光で行っ

記事を読む

Tatsuyaのベスト映画2013

今年を振り返る自己満足企画第3弾。 今度は映画編です。 今年は14本の映画を劇場で観ました。

記事を読む

ad

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

ad

生成AIで作ったキャラクターをLive2Dで加工しUnityで動かす(まばたき、話す)

  ChatGPT(DALL-E3)で作ったキャラクターをもとに、Ch

24時間のトランジットならビザなしで中国に入国できる(上海浦東空港での体験)

中国での入国を伴うトランジットについて、私は事前にググりまくって情報を

『東京都同情塔』を読んで

ChatGPTを活用して作ったという芥川賞受賞作「東京都同情塔」を読了

『ボーはおそれている』を観て

    3月1日の映画の日はミッドサマーの監督の最新作を鑑賞(ミッド

生成AIを使ったテレビニュース風の動画の作り方(HeyGen + Canva)

  イベントの宣伝用にこんな動画を作りました。   誰でも簡単に作れ

→もっと見る

    • 1675919総閲覧数:
    • 17今日の閲覧数:
    • 184昨日の閲覧数:
    • 2現在オンライン中の人数:
    • 2014年4月29日カウント開始日:
PAGE TOP ↑