邦題と内容が全然合ってないけど素晴らしい旅行記『日本の15歳はなぜ学力が高いのか?』を読んで
スイッチサイエンス の高須さんが超絶すすめられていたので読んだ。
まず、この本は日本語のタイトルで損している。
というか、全然タイトルと内容が違う。
原題は
「Cleverlands: The Secrets Behind the Success of the World’s Education Superpowers」
ロンドンの貧困地域の中等学校の教師である著者は、どういう教育プログラムが子供にとっていいのか、世界のPISA(学力到達度調査)上位の国(シンガポール、上海、日本、カナダ、フィンランド)の教師にメールで2・3週間住み込みで学校の手伝いをしたいと連絡をとり、現地の生の教育実態を探究する旅に出た。
本書はその記録であり、教育が主題の書であるが、旅行記のような空気も楽しめる。
日本
日本は、すべての子どもが定められたカリキュラムを習得しなければならないという信念に基づき、入念に計画された教育システム、そして集団の一員として生きることがテーマの教育のおかげで常にPISAのテストで上位の成績をおさめてきた。
ただ、その画一的教育、同調圧力を生じさせる仕組みは、個性というものに対して悪影響が出る。
確かに、よく日本からイノベーションが生まれにくいのは画一的教育により問題解決力を育ててこなかったからだだと言われる。
いわゆる「ゆとり教育」というものはそれを打破するものであった。日本人が苦手とする問題解決力をアップするはずであったが、PISAの読解力の順位が落ちたのは、ゆとり教育が戦犯ににされた。(ゆとり教育をする以前から減少傾向だったのにかかわらず)
問題解決力において日本の生徒たちが世界一になる可能性があったのに廃止してしまった。
と著者は嘆く。
シンガポール
現在はどうか知らないが、この本の記述を見る限り、シンガポールは恐ろしい国だ。
「学歴のない者と結婚すると、頭のよい子とそうでない子が生まれるという問題が起こる」
(リー・クアンユー / シンガポール初代首相)
・リー・クアンユーは、知能というものは、生まれつきの遺伝性のものだと信じていた。だから彼は、普通レベルにも達しない母親の不妊手術に助成金を出したり、大卒の母親には税金を還付したりする優生主義政策を実施し、それによって将来、高い知能を持った労働力が増えて、国にいっそうの経済発展がもたらされると信じていた。
・10歳、12歳といった早い時期に普通科コースと職業訓練コースに振り分けることは大きな不平等だが、職業訓練が仕事に直結する国々では、これは若者の雇用の拡大に繋がっているようだ。
・能力は生まれつきのものと信じてるから、できるだけ早く選別し、勉強のできない子供まで教育する無駄遣いはしない。1人1人が自分のあった役割を果たすためのスキルを持てる様に職業訓練教育をほどこす。
・早い段階での進路選択を制限して不平等を減らし、中等教育の後期から高等教育の時期にかけて職業訓練教育に力を入れて雇用を増やせばいい。シンガポールはそれを完璧にやっている。
シンガポールは、資源のない都市国家であり、有能な人材の確保が最重要であるという特有の事情があるから、仕方ない面があるのだろうが、優生思想につながる早期の選別に私は違和感を覚える。
中国のことわざで「笨鳥 先に飛べば、早く林に入る」というのがある。
生まれつき不器用でも頭が悪くても、がんばれば人よりうまくやることができるという意味だ。
日本の教育も、最初は誰もが同等の知能を持ち、結果として学力に差が生じるのは、環境や、個人の意欲のせいだという前提に立っている。
私は日本や中国の考え方に同意する。
しかし、果たして職業の選択が自由な日本の方が幸せだといえるだろうかという疑問も残る。
いつまでも、自分に適合しない仕事や叶わない夢を追い求めるよりも、早い段階から自分にあった職業でその道のプロになれる教育を十分に受けることができるのなら、そちらのほうがいいのではないかとも思う。
日本は表面上は機会は平等で、広く門戸が開けている様にみえるが、実は教育は親の経済力に比例すると言われる制度上では見えない格差が存在する。シンガポールのように早期に選抜される方が幸福になれる人間が多いのかもしれない。
ただ、シンガポールも行き過ぎた早期選抜には問題視する考えもあるようで、早期選抜に外れても復活する道はあり、それで救われた人間がいるの事実もあり、何をもって良いというのかは、一概にはいえない。
それに対する著者の考えは、明確で、早期選別には否定的だ。
少なくとも15歳頃になるまで枝分かれすべきではないとの意見だ。
20世紀は、工場労働者になるには小学校教育だけで十分だったが、今はより高度なスキルを必要とするようになっているということと、選別試験の成績に親の収入が大きく影響するという点で不公平だという理由だ。
他に、中国、フィンランド、カナダと興味深いところは多々あるが、ここでは省略する。
著者は、カナダが一番バランスが良いとしている。
その理由は、本書を読もう。
旅行記としての魅力
最後に、本書の最大の魅力は、わくわくするような旅行記であるという点だ。
大昔から旅行記は人々に親しまれてきた。
その系譜を受け継ぐと思う。
(読んだことないけど)東方見聞録から始まって、深夜特急、ジムロジャースの世界一周ものなどなど
旅行記は、自分の知らない世界を教えてくれる。
つかぬまの世界旅行に行った気にさせてくれる。
コロナ禍だからなおさらだ。
ここ1年、半径数キロメートルの世界でしか生きていない私にとって、実際に現地に足を運んで体験したひとの話は貴重だ。
そして、自分で行動を起こすことの素晴らしさを教えてくれる。
世界最高の教育を知りたい。
自分の目で見たい。
じゃあ行ってみよう!
というその行動力。
それも、全てが用意された視察旅行ではなく、自分でアポをとって、フライト、宿泊を手配し、日程を決めた旅だから、生々しい体験の息遣いが伝わってくるので、著者の主張に説得力があるのだと思う。
そして、この世界の教育探究の旅が終わったあと、クラウドファンディングで資金を集めてこの本を出版したという行動力も素晴らしい。
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