《空想小説》20年後のデジャブ
早朝、イスラム教の礼拝を呼びかけるアザーンの音で目がさめる。
ここはグリーンランドの首都ヌーク。
地球温暖化で北極の氷は溶け、グリーンランドがアメリカ大陸以来のフロンティアになっていて、世界中から移民が殺到している。
アジア、イスラム系住民への人種差別がひどいので、私はイスラム系住民の多い地域に住んでいる。
数年前に開発したWebサービスで家族分の食い扶持をなんとかまかなえており、たまにクラウドソーシングで仕事を見つけ、細々と生きている。
とはいえ、グリーンランドは急成長で活況を呈しており、所得は少ないが毎日が刺激的で楽しい。
あれから何年経ったのだろう。
私が昔住んでいた日本という国は、少子高齢化が深刻で、人口が激減し続けていた。
国民の大多数を占める高齢者に対する優遇策により、多くの若者に不満が広がっていた。
それら多くの若年層を「日本人はすごい!韓国人、中国人は民度が低い」とテレビという洗脳装置により煽り、不満のはけ口を韓国、中国に向けさすことに成功し、民族主義の極右勢力が台頭した。
失業した若者は、韓国人、中国人のせいだとし、ヘイトスピーチがいたるところで起こっていた。
不穏な時代だった。
そんな状況の中、北朝鮮が韓国に侵攻し、朝鮮戦争が勃発した。
その混乱を機に中国が東シナ海に侵攻、右傾化した日本は躊躇なく中国に対抗し、
北朝鮮、韓国、中国、日本、そしてベトナム、フィリピンを巻き込んだ第1次東アジア戦争に発展していった。
財政破綻寸前だった日本に戦費への負担は耐えられず、日本円はデフォルト。
個人資産はすべて没収となった。
極右勢力に反対な知識層は虐殺され、多くの難民が密航船で日本海を渡り、ロシアへ向かった。
私は日本円のデフォルト直前にすべてをビットコインに換金。
30桁以上あるアドレス、同じく30桁以上ある個人認識番号を覚えるのは大変なので、それらを記したメモを入れた小さな瓶を口から飲み込んで体のなかに隠した。
命からがら、ウラジオストク経由でヨーロッパへ脱出した。
日本海の荒波で何度死を覚悟したことか。
ヨーロッパ中の国を転々とするなか、最終的にグリーンランドにおちついた。
資源争いは、石油が枯渇した中東から北極海へ舞台を移し、アメリカとロシアが対峙している。
赤道周辺は人間の住む気温の限界を超え、アフリカ、中東、インドから多くの難民が北へ移動。
グリーンランドが多くの難民を吸収した。
という状況だ。
アザーンが流れる中、SNSのメッセージをチェックすると、私のWebサービスのパートナーのインド人から8時にスカイプで打ち合わせしようとある。
今はほとんどの業務がAIによって自動化され、会社という形態はなくなりつつある。
ネット上でプロジェクトメンバーを募集し、都度、個人と個人がプロジェクト単位で仕事をするという感じになっている。
今回はインド人とラトビア人とで共同開発のプロジェクトだ。
そういえば、彼らに今回のプロジェクトの前金を払わないといけない。
グリーンランドに通貨はなく、ビットコインが流通している。
というか、アメリカ合衆国以外は自国通貨を持っていない。
世界中でデフォルトが起こり、通貨の信用はなくなり、いっきにビットコインが世界中で使われ始めた。
昔は国家がお金を管理してたんだなんて言うと、
若い人は「冗談でしょ」という反応をする。
時代は変わった。
同じように銀行に個人のお金を預けるという発想もなくなった。
国家のいいなりで預金封鎖に応じる銀行を誰も信じなくなった。
もっぱらスマートフォンのアプリで事足りる。
振込も、引き落としも、スマートフォン1台で完結できる。
お金が必要になったら、クラウドソーシングかレンディングサービスで出資者を募集する。
ところで、かつて日本国と名乗っていた列島は今はどうなっているのだろう?
その列島はインターネットを封鎖し、中の様子が皆目検討もつかない。
列島に潜入したジャーナリストは生きて帰ってこない。
たまに、処刑映像がネットで流れてくる。
そういえば、昔これと同じような映像をどこかで見たような気がする。
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