戦争と家庭どっちが大切なの? ~『アメリカン・スナイパー』を観て。
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映画感想文 アメリカン・スナイパー, 家庭どっち, 戦争
スナイパーといえば、ゴルゴ13。
いかなるときも冷静沈着、完璧な仕事をします。
しかし、ゴルゴ13は漫画の話です。
実際の人間は違います。
人間はそんなに強くはありません。
アメリカ海兵隊特殊部隊ネイビーシールズの屈強な人間で、イラクで160人以上を狙撃したレジェンドと呼ばれたスナイパーでさえ、精神を蝕まれます。
そのスナイパーと家族の苦悩を描いた映画『アメリカン・スナイパー』を観ました。
War is a Drug
という言葉が、私の頭を駆け巡りました。
これは、キャサリン・ビグロー監督の2010年アカデミー賞作品「ハートロッカー」で流れたメッセージで、印象的なので脳のどこかに保存されてました。
「アメリカン・スナイパー」の主人公はイラクから帰ってきても、心はイラクに置いたまま、再びイラクに行きたいといい、妻はそれに悲しみます。
「仕事と家庭、どっちが大切なの?」
と仕事中毒の夫を責める定番の言葉がありますが、そんなものとはレベルが違います。
「戦争と家庭、どっちが大切なの?」
戦争というドラッグにとりつかれた主人公は、それでもイラクに向かいます。
本国にいる妻とイラクにいる主人公をつなぐものとして携帯電話を効果的に使っています。
お腹の赤ちゃんが男の子だったと知り、妻が主人公に携帯電話で報告するシーンの匠さには脱帽でした。
片や生を授かる祝福された世界と、片や子供が惨殺される地獄が、携帯電話を通じ、両方とも同じ世界で同じ時間に起こっているということを描写したこのシーンの展開には、さすがクリントと唸るところです。
クライマックスの主人公の重大な決断も、戦闘中の妻との携帯電話で報告され、印象深いシーンになっています。
それと、子供をうまく伏線につなげています。
予告編にもありますが、対戦車手榴弾を持つ母子へ対する主人公の判断と苦悩。これがあとの重要なシーンにもつながり、緊張感を煽ります。
ほかにも、映画のクライマックスの砂嵐のシーンなど、印象に残る箇所がたくさんあり、さすがクリント・イーストウッド監督といったところです。
あえて残念だった点をあげれば、敵のスナイパーの設定にマンガチックで恣意的なものがあり、エンターテインメントなのかシリアスなドラマなのかのバランスが壊れそうになりましたが、こういうポイントがないと退屈になるかもしれないので、しょうがないところでしょうか。
あと、除隊後の主人公が精神を病み、自分を取り戻していくという流れなのですが、その経緯に深堀りがなく、唐突に映画を終われせている点が、賛否分かれるところでしょう。
これは観客に過度な情報を与えずに、主人公の生き様から何を学ぶのかは、私たち観客に委ねているのではないかと良い方に考えます。
本作品のメッセージは、反戦でも国威高揚でもないと思います。
ただ事実をありのままに描くことで、私たちに問題提起をしています。
わが国でも中東問題がひとごとでなくなった今、観るべき映画ではないでしょうか。
P.S.
現実社会に生きる意味を見出せず、イラクに生きる意味を求め、繰り返しイラクへ従軍する青年のエピソードが載ってる2008年 ピューリッツァー賞の「戦場の掟」という本もオススメです。
(ブログエントリーはこちら)
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キャサリン・ビグロー監督の2010年アカデミー賞作品「ハートロッカー」
ハート・ロッカー [DVD] ジェレミー・レナー,アンソニー・マッキー,ブライアン・ジェラティ,ガイ・ピアース,レイフ・ファインズ,キャスリン・ビグローポニーキャニオン 売り上げランキング : 9363 |
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